なぜNPO業界は被害者救済法制定に揺れたのか

NPOをはじめとした非営利セクターの資金調達に関する話題を書きたいと思います。
先日国会を通過した、旧統一教会がらみのいわゆる「被害者救済法」(法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律)が、にわかにNPOなどの非営利セクター界隈で話題沸騰だったことを受けての記事です。

なぜ話題沸騰だったのかというと、法律によって「寄付の制限」がされてしまった場合、旧統一教会のような「問題のある」団体へのそれだけではなく、寄付財源によって運営している「まっとうな」非営利セクターの資金調達に悪影響があるのではないか、という懸念が発生したからです。

じつは私も、とあるNPOの事務局機能を担当しており、資金調達・寄付をどうやって受け取るかは積年の課題です。そのため、周囲にも非営利セクターの資金調達を担当している知人がそれなりにいるのですが、皆 一様に、この法律制定の動向をチェックしていました。

さて、この法律と、さらに同時に議論されていた消費者契約法の改正ですが、世論の後押しもあり、あっという間に主要政党が合意をして国会を通過。本日12月16日に公布され、2023年1月5日に施行されることが決まったそうです。

NPO業界側は、法案が国会を通過する前から、旧統一教会のような団体と、まっとうなNPOとを一緒くたにして一律的に寄付の制限をかけるのはいかがなものか、と主張をしてきました。中間支援組織が主体となり、寄付規制新法における寄付一律規制に慎重な議論を求めるオンライン集会が開かれたのもその一例です。
しかし法律はもう完成してしまいました。よって、これからは実務としてどのように、影響を最小限に抑えつつこの新法に対応していくかを考えることになります。

法律が施行される2023年1月5日以降、NPOなどの非営利セクターは、寄付集めにあたってどんな点に注意していく必要があるのでしょうか。

中でも最も懸念されているのが、「寄付の取り消し」です。
簡単に言えば、NPO等に対しておこなわれた寄付を、後になって「やっぱり返して」と言われてしまうのではないか、という懸念です。

新聞記事からの引用ですが、被害者救済法では、以下のような場合に寄付の取り消しができるようになっています。

「霊感」を使って不安をあおるなど悪質な寄付勧誘行為を禁止。禁止行為に基づく寄付をした場合には最長で10年間、本人が寄付を取り消すことが可能になった。扶養されている子どもや配偶者も、寄付した人に代わって生活費など将来受け取るべき分も返還請求を可能とした。

毎日新聞2022年12月16日「被害者救済法、1月5日施行へ 悪質な寄付勧誘行為を禁止」より

寄付を受けても、10年の間「もしかしたら返金しないといけないのかも」と思いながら事業運営をしていくなんて絶望的ですよね。なので、まっとうなNPOであっても、どういうときに寄付の取り消しをされるのかがとても心配されるわけです。

しかし、現実的には「まっとうな」寄付募集をしているNPO等であれば、この懸念は的外れであろうと考えられます。
詳しくは弁護士や法学者に解釈をゆだねたいところではありますが、この法律では、不当勧誘行為をおこなって寄付をさせた場合に、その取り消しができるとなっているのです。不当勧誘行為とは、不退去、退去妨害、勧誘をすることを告げず退去困難な場所へ同行、等が該当するわけですが、逆に言えばこれらの行為をおこなわずに寄付を募ればよいと考えられます。むしろまっとうなNPO等であれば、ここに挙げられているようなあやしい勧誘行為は、これまでだってやっていないと思いますが……。

しかし一方で、あとになって、寄付者から「あれは不当勧誘行為だった」と主張されてしまっては困ります。そのため、最低限、透明性の高い寄付募集をしておくことが肝要でしょう。
さらに、そもそも論でいえば、非営利セクターの寄付とは、誰かに強制されておこなわれるものではなく、その団体の活動や理念に共感してもらっておこなわれるものだと思います。その意味では、当たり前の話ではありますが、いかに寄付者に対して自団体の活動や理念について理解してもらうか、そのコミュニケーションにこそ鍵があるのではないかと思います。

この新しい法律の成立背景を考えても、旧統一教会のような団体への不当な寄付を制限したいというのが主目的です。まっとうな非営利セクターの寄付集めを、妨害しようという意図はありません。国会の委員会質疑では、まっとうなNPO等に対する寄付文化を萎縮させないことについて質問をした議員もいました。
むしろ新法成立をきっかけに、あやしい団体が淘汰され、まっとうな非営利非営利セクターに寄付が集まるようなきっかけになると良いと思います。

(青木)

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