一例として、オーダーメイドの製品を小ロットで製造している会社では、問い合わせ対応に多くの時間がかかります。
例えば金属加工、樹脂加工、特注部品、什器、ケース、パッケージなどを製造している会社では、問い合わせの時点で仕様がすべて決まっているとは限りません。
「アルミ製のケースを50個作りたい」「この形に近い部品を少量だけ製作したい」「既製品では合わないので特注したい」といった問い合わせが届いても、それだけでは見積もりや製造可否の判断ができないことがあります。
そのため営業担当が内容を確認し、不足している情報を洗い出し、顧客へ追加で質問する必要がありますが、この業務は、過去案件の情報とAIを組み合わせることで効率化できます。
オーダーメイド製造では問い合わせ時点で情報が足りない
例えば、問い合わせフォームから次のような内容が届いたとします。
「アルミ製のケースを50個作りたいです。サイズは300mm×200mmくらいです。ロゴも入れたいです。納期は来月末を希望しています。」
一見すると具体的に見えますが、実際に見積もりを作るにはまだ情報が足りません。
材質はどの種類のアルミなのか、板厚はいくつなのか、表面処理は必要なのか、ロゴは印刷なのかレーザー刻印なのか、寸法公差はどの程度なのか、図面はあるのかといった情報によって、製造方法や価格は大きく変わります。
屋外で使用する製品であれば、耐候性についても確認する必要があるかもしれません。
営業担当がこうした条件をすぐに判断できればよいのですが、製品によって必要な確認事項が違う場合、技術担当に相談することも多くなります。
AIに問い合わせ内容を最初に整理させる
この業務を効率化する場合、最初からAIに見積金額を決めさせる必要はありません。まずは問い合わせ内容を整理させるのです。
自社Webサイトの問い合わせフォームから送られた内容をGoogleスプレッドシートやkintoneなどに保存し、AIがその内容を読み取ります。AIは、問い合わせの中ですでに分かっている情報と、まだ分かっていない情報を分けます。
例えば今回の問い合わせであれば、製品の種類、数量、大まかなサイズ、ロゴ加工の希望、希望納期までは分かっています。一方で、材質の詳細、板厚、表面処理、ロゴの加工方法、寸法公差、図面の有無などは分かっていません。
この状態をAIが整理するだけでも、営業担当が毎回文章を読んで確認項目を書き出す作業を減らせます。
過去案件を参照して確認すべき内容を判断する
さらに重要なのが、過去の案件情報をAIに参照させることです。
例えば過去に次のような案件があったとします。
| 過去案件 | 主な条件 | 追加で確認した内容 |
|---|---|---|
| アルミ製機器ケース | 100個、屋内利用 | 板厚、表面処理、穴加工 |
| 制御盤カバー | 30個、屋外利用 | 耐候性、塗装方法、寸法公差 |
| 展示用アルミケース | 50個、ロゴ入り | ロゴ加工方法、色指定、試作の有無 |
今回の問い合わせ内容が「アルミ製ケース、50個、ロゴ入り」であれば、AIは展示用アルミケースの案件が近いと判断できます。
その案件では、ロゴ加工方法や色指定、試作の有無を確認していたため、今回も同じ点を確認したほうがよいと判断できます。単純に製品カテゴリーごとの質問テンプレートを使うのではなく、過去に似た案件で何を確認したかまで参照することで、より実務に近い対応ができます。
AIが不足情報を聞く返信メールを作る
不足している情報が整理できたら、AIが顧客への返信メールを作成します。例えば今回であれば、材質の種類、板厚、表面処理の希望、ロゴの加工方法、図面の有無などについて確認するメールを作ることができます。
問い合わせ内容によっては、すでに板厚が記載されている場合もあります。その場合は、AIが同じ質問を繰り返さないようにします。逆に、屋外利用と記載されている場合には、耐候性や防錆処理について追加で確認することもできます。
このように、固定されたメールテンプレートではなく、問い合わせ内容に応じて質問を変えられることがAIを使うメリットです。
なお返信メールは、最初から自動送信する必要はありません。まずはGmailの下書きとして保存し、営業担当が内容を確認して送信する運用にすると安全です。
図面や参考画像が添付されている場合にも使える
オーダーメイド製造では、問い合わせフォームにPDF図面や参考画像が添付されることもあります。その場合は、添付ファイルをGoogle Driveへ保存し、AIにメール本文やフォームの入力内容とあわせて確認させることもできます。
例えば図面に材質や寸法が書かれていれば、その情報を改めて顧客へ質問する必要はありません。一方で、図面には外形寸法と材質が書かれているものの、表面処理について記載がない場合には、「表面処理についてご指定はございますか」と確認することができます。
問い合わせフォームの文章だけを見るよりも、添付された資料まで含めて判断させるほうが、追加質問の精度を上げられます。
営業と技術担当のやり取りも減らせる
この仕組みは、顧客への返信を早くするだけではありません。営業部門と技術部門の間のやり取りを減らせる可能性もあります。
現在の業務が、営業担当が問い合わせを受け、技術担当へ内容を転送し、技術担当が不足情報を指摘し、その内容を営業担当が顧客へ送り直すという流れになっている場合、確認に時間がかかります。AIが過去案件や確認ルールを参照し、最初の段階で不足情報をある程度洗い出せれば、技術担当に回す時点で必要な情報が揃いやすくなります。
もちろん、特殊な加工や技術的な製造可否については最終的に技術担当の判断が必要です。AIの役割は、専門家の判断を置き換えることではなく、専門家へ相談する前に整理できる情報を整理しておくことです。
過去案件の情報が蓄積されるほど使いやすくなる
この仕組みでは、過去案件のデータが重要になります。
案件名だけではなく、材質、数量、サイズ、加工方法、用途、納期、実際に顧客へ確認した項目などを残しておくと、次回以降の判断に利用できます。さらに、問い合わせ時点でAIが作った質問と、その後実際に製造された内容を紐づけて残しておけば、「この種類の案件では何を確認すべきか」というノウハウも蓄積できます。経験豊富な営業担当や技術担当が頭の中で行っている判断を、過去案件という形で少しずつ共有できるようになります。これは、問い合わせ対応を速くするだけでなく、担当者による対応品質のばらつきを減らすことにもつながります。
AIに最終判断まで任せないことが重要
オーダーメイド製造では、案件ごとに条件が異なるため、AIだけで製造可否や価格を確定するのは適していません。例えば、同じ材質や数量でも、納期、設備の空き状況、外注工程の有無によって対応できるかどうかは変わります。そのため、AIには問い合わせ内容の整理、過去案件の検索、不足情報の抽出、返信メールの作成までを担当させます。製造可否や見積金額、正式な受注判断については、人が確認する仕組みにします。AIがすべてを自動化するのではなく、「人が判断するために必要な情報を揃える」と考えるほうが、実務では使いやすくなります。
まとめ
オーダーメイドの小ロット製品を扱う製造業では、問い合わせが届いても、その内容だけでは見積もりや製造可否を判断できないことがあります。そのたびに営業担当が不足情報を確認し、場合によっては技術担当へ相談し、顧客へ追加質問を送ることになります。
問い合わせフォームの内容をAIに読み取らせ、過去の類似案件を参照させることで、今回の案件で不足している情報を自動的に整理できます。さらに、その内容に応じた返信メールをGmailの下書きとして作成すれば、営業担当は内容を確認して送信するだけになります。Google Driveに保存された図面や参考資料も含めて確認させれば、すでに書かれている内容を聞き直すことも減らせます。
AIに製造の最終判断を任せるのではなく、問い合わせ内容を整理し、人が判断できる状態まで準備させる。このような使い方は、案件ごとに条件が異なるオーダーメイド製造業に向いているAIエージェント活用の一例です。