中小企業の営業部門では、同じ情報を何度も入力しているという無駄な業務が発生しがちです。
例えば新しい取引先との契約が決まったとき、営業担当がお客様から会社名、住所、担当者名、電話番号、メールアドレスなどを聞き取ります。その情報を営業担当が社内へ伝え、営業事務が改めてkintoneなどの顧客管理システムへ入力し、さらにその情報を使って契約書や請求書を作成します。
一つひとつの入力作業は数分程度でも、取引先が増えるほど負担は大きくなります。転記するたびに入力ミスが発生する可能性もあります。
こうした業務は、実はAIを使わなくてもかなり効率化できます。
Googleフォーム、Googleスプレッドシート、Google Apps Script(GAS)、kintoneを組み合わせれば、お客様自身が入力した情報を営業事務が利用するシステムまで連携できます。
お客様の情報を営業担当が聞き取って入力していないか
例えば、ある中小企業で新規顧客との契約が決まったとします。
その後、契約書や請求書を作るために、正式な会社名、所在地、代表者名、担当者名、部署名、電話番号、メールアドレスなどが必要になります。
営業担当がお客様にメールを送り、会社名と住所を教えてくださいと依頼するケースもあるでしょう。
お客様から返信が届いたら、営業担当がその内容を社内の管理表へ入力します。その後、営業事務がその管理表を見ながらkintoneへ入力し、さらに契約書を作成する際に会社名や住所をコピーします。
つまり、一度お客様から受け取った情報を、人が何度も転記しているわけです。
入力作業そのものだけでなく、「株式会社が前に付くのか後ろに付くのか」「住所にビル名まで必要なのか」「契約担当者と請求担当者は同じなのか」といった確認も発生します。
そこで、そもそもの情報の集め方から変えます。
必要な会社情報はGoogleフォームから入力してもらう
まず、お客様に入力してもらうGoogleフォームを用意します。
会社名、郵便番号、住所、担当者名、部署名、電話番号、メールアドレス、請求書の送付先など、契約後の事務処理に必要になる情報をフォームにします。
Googleフォームから送信された回答はGoogleスプレッドシートへ保存できます。
この方法であれば、営業担当がお客様から聞いた情報を改めて入力する必要がありません。お客様自身が入力したデータを、そのまま次の処理に利用できます。
例えば、社内で次のような項目を管理するとします。
| 項目 | 入力する人 | 主な利用先 |
|---|---|---|
| 会社名 | お客様 | kintone、契約書、請求書 |
| 郵便番号・住所 | お客様 | kintone、契約書 |
| 担当者名 | お客様 | kintone、各種書類 |
| メールアドレス | お客様 | kintone、連絡 |
| 電話番号 | お客様 | kintone |
| 請求書送付先 | お客様 | kintone、請求業務 |
ポイントは、「お客様が入力した情報を、最初から社内で再利用できるデータとして受け取る」ことです。
kintoneへの登録前に営業担当が確認する
Googleフォームから送信された情報を、そのままkintoneへ自動登録することも技術的には可能です。
しかし、必ずしも完全自動化が最適とは限りません。
お客様が会社名を略称で入力していたり、契約先とは異なる部署の住所を入力していたりする可能性があります。また、営業担当しか分からない取引条件を追加する必要があるかもしれません。
そこで、Googleフォームの回答がGoogleスプレッドシートへ入った段階で、一度営業担当が目視で確認します。
問題がなければ、スプレッドシート上に用意した「kintone登録」などのボタンを押します。
Google Apps Scriptでは、Googleスプレッドシートに独自のメニューを追加したり、シート上の画像や図形にスクリプトを割り当てたりすることができます。つまり、担当者がボタンを押したことをきっかけに処理を実行する仕組みを作れます。
完全自動ではなく、人が確認した後にボタンを押すという工程を残すことで、効率化と確認作業を両立できます。
GASからkintoneへ自動登録する
営業担当が確認ボタンを押したら、GASがGoogleスプレッドシートの該当行を読み込みます。
そのデータをkintone用の形式に変換し、kintoneのREST APIを利用して営業事務が使用しているアプリへ登録します。kintoneではREST APIを利用してアプリへレコードを登録できるため、このようなGoogle Workspaceとの連携を構築できます。
例えばGoogleスプレッドシート上の「会社名」をkintoneの会社名フィールドへ、「住所」を住所フィールドへ、「担当者名」を担当者名フィールドへ登録します。
登録が成功したら、Googleスプレッドシート側にも「登録済」と記録しておくと便利です。
| 会社名 | 担当者 | 営業確認 | kintone登録状況 |
|---|---|---|---|
| 株式会社○○ | 山田太郎 | 確認済 | 登録済 |
| 株式会社△△ | 鈴木花子 | 確認済 | 登録済 |
| 株式会社□□ | 佐藤一郎 | 未確認 | 未登録 |
これによって、同じ会社を何度も登録したり、登録したつもりで処理を忘れたりすることも防ぎやすくなります。
営業事務はkintoneから仕事を始められる
この仕組みの大きなポイントは、営業事務の業務を変えすぎなくてよいことです。
営業事務はこれまでと同じようにkintoneを開きます。すると、新しく契約する会社の情報がすでに登録されています。営業事務はその情報をもとに、契約書や請求書など必要な書類を作成します。
つまり、営業事務に新しいGoogleスプレッドシートの使い方を覚えてもらったり、毎回Googleフォームの回答を確認してもらったりする必要はありません。
営業部門ではGoogleフォームとGoogleスプレッドシートを使い、営業事務はkintoneを使う。それぞれが普段使う場所を大きく変えず、その間だけをシステムでつなぎます。
業務効率化というと、大規模なシステムを導入して会社全体の仕事のやり方を変更するイメージがありますが、実際にはこのような小さな連携でも十分に効果があります。
実は、この仕組みではAIを使っていない
ここまでの仕組みを振り返ると、AIは登場していません。
Googleフォームで入力してもらい、Googleスプレッドシートへ保存し、営業担当が確認して、GASからkintone APIを呼び出しています。これはAIではなく、通常のシステム連携です。
しかし、業務効率化ではこの視点が非常に重要です。
最近は「AIを導入して業務を効率化したい」という相談が増えていますが、すべての業務にAIが必要なわけではありません。
今回のように、入力する項目も、転記先も、処理方法も明確に決まっている仕事では、AIに判断させるよりも、決められたルールでシステムを動かしたほうが正確です。
AIが得意なのは、メールの文章を読んで内容を分類したり、資料を要約したり、過去の情報から判断案を作ったりするような、ルールだけでは処理しにくい仕事です。
一方、「スプレッドシートの会社名をkintoneの会社名フィールドに登録する」という仕事にAIは必要ありません。
GASを作るところではAIが役に立つ
それでも、このような業務改善とAIが無関係というわけではありません。AIが非常に役立つのが、仕組みを作る段階です。
例えば、「Googleスプレッドシートの選択した行から会社名、住所、担当者名を取得して、kintoneのREST APIへ送るGASを書いてほしい」とAIに依頼すれば、コードのたたき台を作らせることができます。
エラーが発生した場合も、エラーメッセージと現在のコードをAIに渡して原因を調べたり、「登録成功後にスプレッドシートへ登録済と書き込みたい」と追加の修正を依頼したりできます。
以前であれば、小さな業務連携でもプログラムを書ける人に一から依頼する必要がありました。現在はAIを開発補助として使うことで、こうした小規模な自動化を作るハードルが下がっています。
つまり、「AIが毎日の業務を処理する」のではなく、AIを使って業務を自動化する仕組みを作るという使い方もあります。
まとめ
中小企業の営業や営業事務では、同じ顧客情報を何度も入力していることがあります。
お客様自身にGoogleフォームから会社情報を入力してもらい、その情報をGoogleスプレッドシートへ保存します。営業担当が内容を確認した後、GASを使ってkintoneへ登録すれば、営業事務が同じ情報をもう一度入力する必要はありません。
営業事務は登録済みのkintoneデータから契約書や請求書などの作成を始めることができます。
この仕組み自体にはAIは必要ありません。決められたデータを決められた場所へ移す仕事であれば、通常のシステム連携のほうが適しています。一方で、そのシステム連携を実現するGASのコード作成やエラー修正にはAIを活用できます。
AIによる業務改善を考えるときには、何でもAIに処理させるのではなく、「AIが必要な仕事なのか」「普通の自動化で十分なのか」を見極めることも重要です。AIを使うところと、従来型のシステム連携を使うところを適切に分けることが、中小企業にとって現実的な業務効率化につながります。