生成AIによる業務効率化に取り組む中小企業が増える一方で、「ツールは導入したのに現場が思ったほど使ってくれない」「効率化したはずなのに全体の納期は変わらない」という声も多く聞かれます。その原因は、ツールの選定や使い方ではなく、中小企業内の人事評価制度や業務設計にあることが少なくありません。
AIで生まれた余剰時間に別の仕事を振る
生成AIで業務効率化に成功した従業員には、当然ながら時間の余剰が生まれます。このとき経営者や管理職が「手が空いたなら、こちらの仕事もお願い」と新しい業務を振ってしまうと、何が起こるでしょうか。
従業員の立場から見れば、工夫して効率化した結果、仕事が増えるという報酬を得ることになるわけです。こういった従業員から見ると意味が分からない構図を経験した従業員は、次からは効率化しても、誰にも言わず黙っていることでしょう。AIをうまく使うノウハウを見つけても社内で共有しないのです。しかしこれは従業員が不誠実なのではなく、組織の仕組みがそう行動させているだけではないかと弊社では考えます。
この、効率化した人が損をする構造というのは、中小企業のAI導入がうまくいかない原因の第一位ではないでしょうか。
業務効率化のノウハウを共有したくなる評価の仕組みへ
ポイントは、AI活用による業務効率化を、個人への追加業務ではなく組織の成果として評価することだと考えます。
例えば、業務改善のアイデアを共有した人を評価対象にする、AI活用で削減できた時間を部門単位で計測して成果として扱う、浮いた時間の一部を学習や改善活動に充ててよいと明示する、といった方法があります。
生成AIの導入は、単なるツール導入ではなく、中小企業の評価制度を見直す絶好の機会です。どれだけ量をこなしたかを基準に人事評価をしているような古い会社ほど、AI時代には整合性が取れなくなっていきます。この機会に、成果と改善への貢献をどう評価するかを検討してみると良いのではないでしょうか。
AIで自動化を進めるほど人間の承認がボトルネックになる
生成AIによる業務自動化を進めていくと、多くの企業である現象が起こります。AIで効率化できない、いわば残された部分が、ボトルネックとして一気に可視化されるのです。
代表的なのが、人間による承認や押印のプロセスです。たとえば見積書の作成が3時間から10分になっても、部長の承認に2日かかるのであれば、お客様から見た納期はほとんど変わりません。むしろ、前工程が速くなったぶん、承認待ちの案件が積み上がって滞留が目立つようになります。同じことは、紙でのやり取り、対面での確認、属人的な判断が必要な工程などでも起こります。
したがって、AIによる業務効率化を検討する際には、その業務単体だけを見るのではなく、前後の工程を含めた業務プロセス全体を設計し直す視点が必要なのです。承認の階層は本当に必要か、金額によっては承認を省略できないか、報告の頻度は適切か。AI導入は、こうした長年触れられてこなかった業務設計を見直すきっかけにできるのです。
生成AIのアウトプットを本人も上司も鵜呑みにしない
生成AIを使えば、誰でもそれなりの見栄えのアウトプットが作れます。企画書も、分析コメントも、提案文も、数分で形になります。しかし、なぜその結論になったのかを、作成した本人が説明できないケースが出てくるのが昨今のAI事情です。大学生が生成AIを使って論文を書いたけど、口頭試問では何も答えられない、というような話と似ています。
AIが提示した数字の根拠を確認していない、業界の前提が自社に当てはまるか検証していない、引用された事例が実在するか調べていない、などという問題が発生することが考えられます。それでも文章としては整っているため、一見すると問題がないように見えてしまうのです。
その上、上司の側もその企画書などを鵜呑みにしてしまうこともあり得るでしょう。体裁の整った資料が出てくると、内容の吟味が甘くなるからです。生成AIの出力結果は下書きであって完成品ではない、という前提を中小企業の中全体で共有しておく必要があります。
説明できるかどうかを確認するだけで品質は担保できる
そのため提出物に対して「この数字の出典はどこですか」「なぜこの結論になったのですか」と上司側が一言確認する習慣をつけるだけで、問題は防ぐことができるでしょう。
本人が自分で説明できないようなアウトプットは、そのまま社外に出さないという基準を明文化しておけば、従業員も事前に自分で検証するようになります。AIが作った内容であっても、最終的な責任を負うのは提出した人であり、承認した会社であるという原則を、生成AI利用ガイドラインに明記しておくのもよいでしょう。
まとめ
中小企業が生成AIの業務効率化を組織全体で成功させるには、ツールの導入だけでは不十分で、以下のような対策が必要です。
- 評価制度の見直し…効率化した個人に業務を上乗せせず、改善への貢献を組織として評価する
- 業務設計全体の再構築…AIで速くなった工程の前後にある承認や確認のボトルネックを見直す
- アウトプットの検証習慣…本人も上司も生成AIの出力を鵜呑みにせず、説明できるかを確認する
生成AIの導入は、業務の一部を置き換える取り組みであると同時に、自社の業務プロセスと評価の仕組みを点検する機会でもあるのです。