社内ナレッジマネジメントをAIで効率化する。就業規則に根拠つきで答えるチャットを作った

弊社で、社内ナレッジマネジメントをAIで効率化するツールを作ってみました。

まず、Googleドライブに就業規則のWordファイルを置いておきます。社員がブラウザで社内専用のサイトを開き、質問を打ち込むと、AIが自社の規程をもとに回答し、どの条文を根拠にしたかも一緒に返してくれます。動画では2つの質問を試しています。

動画はこちら

社内ナレッジマネジメントで実際に困っているのは、検索できないこと

就業規則は、たいていの会社で共有フォルダの中に眠っています。入社時に形式的に配られるものの、それきり誰も開かないというのが実情でしょう。

そうすると、何か困ったことがあったとき、社員は総務や社長に直接聞きに来ます。「有給って入社何ヶ月から使えましたっけ」「慶弔休暇は何日ですか」「副業って申請が要るんでしたっけ」

聞かれた側は、その都度ファイルを開いて該当条文を探します。1件5分から10分。月に20件あれば、それだけで月3時間前後。しかも同じ質問が何度も来ます。有給の付与日数の質問は、弊社が支援している会社では年に十数回きているなという感触です。

社員側が、Wordファイルの検索ができないわけではないと思います。ですが社員は「有給」で検索して条文を読み解くより、総務担当者(人)に聞くほうが早いと判断するわけです。就業規則のどこかを読んで自分のケースに当てはめるより、総務に聞けば10秒で答えが返ってくる。人に聞くのは合理的な行動なので、「規程を読め」と言っても解決しないのです。

そこで、読ませる側を変えるのではなく、答える側を自動化するという発想が出てきます。

就業規則をAIに読ませて、根拠つきで答えさせる仕組み

Googleドライブに置いた就業規則ファイル(.docxファイル)を取り込み、テキストを抽出します。それを条単位に分割してから、専用サーバに保存しておきます。

社員が質問すると、質問文を解析して、近い条文を上位いくつか引っ張ってきます。その条文の原文を生成AI(Gemini API)に渡して、「この条文の範囲だけで回答してください」と指示しますと、回答と一緒に、参照した条番号と該当箇所の抜粋を返させるようにしています。

動画で「回答根拠も示してくれる」と言っているのは、この部分です。AIが何を読んで答えたのかが見えるので、疑わしければ社員が原文を確認できます。

「間違ったことは言わない」という説明は、正確ではない

動画のナレーションでは「自社の就業規則をもとにしていますので、間違ったことは言わないようになっています」と言っています。ここは補足させてください。

正確には、間違いを言う確率を下げているだけです。ゼロにはなりません。

自社の規程だけを根拠にさせる構成にすると、一般論やネット上の情報で答える事故は防げます。ただ、規程に書いていないことを聞かれたときが問題です。例えば「テレワーク中の交通費はどうなりますか」と質問してみたとして、規程に記載がないにもかかわらず、それらしい回答が返ってくるようなことがあります。近い条文を引っ張ってきて、そこから推測して答えてしまうわけです。

対策として、プロンプトに「参照した条文に該当する記載がない場合は、回答せず『就業規則には記載がありません。総務に確認してください』と返す」と明示するなどの対策が必要です。あわせて、検索の類似度スコアが閾値を下回った場合は、そもそも生成AI(Gemini)に投げずに定型文を返すなども必要でしょう。

それでも100パーセントではありません。だから回答画面には、根拠として示した条番号を必ず並べているわけです。おかしいと思ったら原文を見る。

社内専用サイトはFirebaseで作った

社員が使う画面は、Firebaseというグーグルが提供するサービスで公開しています。

社内専用にするための認証は、Firebase Authenticationで会社のGoogleアカウントに限定しました。Google Workspaceを使っている会社なら、ドメインで絞り込むことができますし、加えてApp Checkを有効にして、正規の画面以外からAPIを叩かれないようにすることもできます。

就業規則の中身は外に出していい情報ではないので、URLを知っていれば誰でも見られる状態にはできません。本格的に運用するなら、こうしたサーバ機能の用意が前提になります。Firebaseを選んだのは、Hosting、認証、データベース、サーバレス関数が一式そろっていて、小規模なら無料枠の範囲で動くからです。

「ChatGPTに就業規則を貼り付ければ済むのでは」への回答

これはよく言われます。実際、個人でやるぶんにはそのとおりです。20ページのPDFをアップロードして質問すれば、同じような答えは返ってくるでしょう。

それでも今回のように専用サイトを作ったほうがいいこともあるでしょう。

ひとつめは、社員全員が同じ操作をしてくれるとは思えない、ということです。ファイルをアップロードして質問する手順を、全社員が毎回踏んでくれるでしょうか。おそらく、一部の人だけしかやってくれません。総務担当者に聞くほうが早いからです。質問欄が1つあるだけの画面でないと、使われません。

2つ目は、改定への追随です。個人が手元にダウンロードしたPDFは、改定されても更新されません。3年前のファイルを貼り付けて質問している社員が出てきます。管理者が1箇所を差し替えれば全員の回答が変わる構成でないと、ナレッジマネジメントとして成立しないわけです。

3つ目は情報の持ち出しです。就業規則そのものは機密性が低いかもしれませんが、この仕組みを社内マニュアルや価格表などに広げていくと話が変わります。「業務資料は各自でAIサービスにアップロードしてよい」という運用を先に作ってしまうと、後から止めるのが難しくなります。

まとめ

社内ナレッジマネジメントをAIで効率化する仕組みは、Googleドライブに置いたWordファイルとFirebase、生成AI(Gemini API)の組み合わせで作れます。社員がやるのは質問を打ち込むことだけ。回答には根拠の条番号が付くので、疑わしければ原文にあたることができます。

自社の就業規則や業務マニュアルで同じことができるか整理したい会社は、AX診断をぜひお試しください。